世界的な市場の不安定化が進む中、オーストラリアのフィンテック企業Zip Co Ltd(ASX: ZIP)は驚くべき決算を発表しました。2025年3月31日までの四半期において、同社のEBITDAは前年同期比219.4%増の4,600万豪ドルに達し、過去最高を更新しました。この好決算を受けて株価は急上昇し、一時18%以上上昇、ASX主要株価指数の中で最も好調な銘柄の一つとなりました。
この結果は、低迷するテックセクターに活力をもたらすと同時に、投資家に対してBNPLモデルがインフレや金利の不確実性にも柔軟に対応できること、そしてその国際的な拡張性と収益性を再確認させる内容となっています。

▲ 米国市場が「成長エンジン」
Zipの成長は、米国子会社の好調な業績に支えられています。本四半期、米国事業は1億850万米ドルの収益を上げ、前年同期比44.1%増を記録。総取扱高(TTV)は15億米ドルで、前年同期比40.2%増とな
りました。
これは、米国の消費者が金利上昇と物価高の影響を受ける中でも、BNPLが依然として従来のクレジット商品に代わる有力な選択肢であることを示しています。より透明で利息のない支払い方法への需要は、経済的プレッシャーが高まるほどに強まっています。
▲ 収益モデルの成熟と財務改善の加速
グループ全体では、Zipの総収益は前年同期比26.5%増の2億7,890万豪ドルに達し、もはや「赤字で成長を買う」スタートアップモデルではないことを示しています。同時に、同社は2025年度のEBITDA予測を、従来の1億4,700万豪ドルから少なくとも1億5,300万豪ドルに上方修正しました。
注目すべきは、3,000万豪ドル規模の自社株買いプログラムを発表した点です。これはテクノロジー企業としては珍しく、将来的なキャッシュフローと株主還元に対する経営陣の強い自信を示しています。
UBSのアナリストは、「Zipの成長軌道を踏まえると、今回の上方修正は依然として控えめであり、さらなる成長余地がある」と指摘しています。
▲ 政策リスクの懸念はあるが、Zipは「耐性」あり
一方で、投資家が注視すべきリスク要因として、マクロ経済政策や地政学的な変動があります。UBSは、「4月初旬のトランプ政権による新たな関税発表を受け、第4四半期におけるZipの不確実性は増している」と警鐘を鳴らしています。このような政策変動は、越境取引や消費者支出の意欲、コスト構造に影響を与える可能性があります。
しかし、Zipはオーストラリアと米国の「二大市場」での安定した展開、継続的なユーザー増加、そして着実な収益モデルにより、こうした外的ショックに対する一定の耐久力を備えています。
• 投資家への提言:BNPL業界の「再編期」における戦略的チャンス
近年、BNPL業界は「成長優先」から「利益重視」へのシフトを迎えています。AffirmやAfterpay(現在はBlockの傘下)などの大手が成長の限界に近づく中、Zipのように地道に地域市場を攻略する企業が、業界再編の中で注目されやすくなっています。
▲ ビジネス上の提言:
バリュー投資家は、Zipの北米市場での浸透率およびリピート利用動向を、中長期の成長性を判断する上での重要指標として注視すべきです。
短期トレーダーは、決算を材料とした波動を活用可能ですが、政策関連のニュースには警戒が必要です。
長期戦略投資家は、ZipをBNPL業界の「第2波利益フェーズ」の代表的な銘柄として注目し、その転換戦略をベンチマークに、他社の評価に活用するのも一案です。
▲ 結び:Zipの好決算は、BNPL業界の次なるステージを象徴
Zipの業績と株価の反応は、BNPL業界が本格的に「利益検証段階」に入ったことを示しています。高金利や政策不安、競争の激化といった逆風の中で、本当に生き残るのは、スケール効率・リスク管理力・国際展開力を備えた企業だけです。投資家に求められるのは、短期的な株価の上下に一喜一憂することではなく、「柔軟な消費」という概念を、いかにして安定的なビジネスモデルへと昇華できるか――その本質を見極める力なのです。